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ナバホの人々(Navajo)

ナバホ族はアリゾナ州の北東部からニューメキシコ州にまたがるフォー・コーナーズの沙漠地帯に、一定の自治権を保有した「ナバホ・ネイション (Navajo Nation)」として、アメリカ最大の保留地(Reservation)を領有している部族のことだ。

ホピ族と先住民文化のコーナーでも触れたとおり、先住民は、黒人以下の扱いで苦難を強いられてきた人々であり、その中でも、ナバホ族の最大の苦難とされているのは、ロング・ウォーク・オブ・ナバホだろう。
ロング・ウォーク・オブ・ナバホ(Wikiより)

この後ようやく、1870年頃、ナバホ族の人々は、現在のフォーコナーの地に戻ることが許され、その地のリザベーション内で生活することになった。


●儀式について
「地底から先祖が現れた」という神話があり、その再現であるイェイビチェイ(Yeibichai)と呼ばれる精霊行進の儀式が、夏に行われ、冬は、「スクオダンス」と呼ばれる儀式がよく行われている。

●宗教観について
アメリカインディアンの多くの部族同様、彼らもまた、自然の中にあるすべて、「森羅万象に敬意を払い、自分自身もその一部という認識」のもとに成り立っている。従って、唯一神を崇める信仰とは全く異なる。
厳密に言えば、「信仰・宗教観」という言葉も当てはまらないように思う。偶像崇拝をすることもない。彼らにとって、イェイビチェイ(Yeibichai)もまた、拝むような神では無い。聖なる精霊なのだ。


●ターコイズと銀
そういった儀式の際には、必ず、ターコイズと銀を用いた装飾品を身に着けている。インディアンジュエリーとしても、ナバホのターコイズと銀を用いたものは有名。
右の画像はメディスンマン。彼のネックレスは、やはりターコイズで作られている。しかも、この形は、よくメディスンマンが身に着けていることが多い。(下記の画像の左側のタイプ)
また、画像の右側の形のネックレスは、スクアッシュと呼ばれている。やはり、これもメディスンマンや、一般の人々も、儀式のときなどには、身に着けていることも多いようだ。

右は、正式には、「スクアッシュ・ブロッサム」と呼ばれる形。
なぜ、このような形になっているのかは不明。
また、語源もはっきりしていない。

●インディアン・フルート
インディアン・フルートの奏者も多い(右サイドバーの、Indian Fluteから曲が聴ける)

●ナバホの気質
「先取の才がある」といわれる部族で、18世紀にスペイン人が羊を持ち込んだ際には、羊の放牧をすぐに採り入れる。

●ナバホ・ラグ
「ナバホ・ラグ」と呼ばれる精巧な絵柄の羊毛の敷布は19世紀に貴重な交易品となり、現在も珍重されている。
(詳細は、右のサイドバーから「ナバホラグの歴史」を参照。)

●伝統的な住居
ホーガンという、木組みと土で出来たイグルーのような形の伝統住居を持つ。現在でも、この「ホーガン」で暮らす人々もいるようだ。 内部は住みやすく快適なようだ。

● 従来の生活
白人によって、リザベーションに入れられる前まで、ナバホ族の暮らしは、農業、狩猟、収集、取引、襲撃から成り立っていた。男性は、主に、トウモロコシの粉挽きと襲撃を受け持っていた。

インディアンにおける襲撃は、主に、近隣の部族を襲って馬を奪ってくることだったようだ。彼らの襲撃は、泥棒という感覚ではなく、むしろスポーツに近いかもしれない。勝ったものが「戦利品として、堂々と、もらう権利がある」という考え方に基づいているようだ。
(かつて日本人が、べエ駒や凧揚げで、勝者が相手の駒や凧を分捕ってくるという感覚に近いかもしれない。)
下記は、勇猛果敢で戦闘的と言われた、スー族の戦士、シッティングブルの言葉↓
「我々にとっての戦士とは、お前さんたちが考えるような、ただ戦う者ではない。本来誰にも他人の命をとる権利はないのだから、戦士とは、我々のためにあり、他者のために犠牲となる者だ。その使命は、歳取った者やかよわき者、自分を守れない人々や将来ある子供たちに注意を払い、守りぬくことにあるのだ。」

●アルコール依存症の問題
リザベーション内で生活を強いられえるようになり、また、子供たちは両親から引き離されて、白人の寄宿学校に入れられて徹底した洗脳教育を施されるようになる。
その後、寄宿学校からリザベーションに戻された彼らは、心を病む者が増えアルコール依存症が激増した。
リザベーションに戻されても、制限された状況の中でほとんど仕事は無く、貧困生活、インディアンの誇りとしていたものもすでに無く、大きなアイデンティィー喪失の現状が、自殺・アルコール依存症などを引き起こし、一時は、彼らにとって大きな社会問題となった。
現在も、ナバホのリザベーション内では、酒類禁止となっている。

●リザベーションは、アメリカ合衆国内務省BIA(インディアン管理局) の管理下にある。
当局によって、はじめに、リザベーション内で許された産業は、農業と牧畜のみだった。狩猟は禁止。 現在でも、羊の放牧は、年次ごとに連邦管理官のチェックがあり、羊が許可頭数を超えていた場合、管理官によって強制的に溺死処理させられるという厳しい制限つきになっている。

●地下資源
どこのリザベーションも不毛な土地で、白人社会においては、見向きのされなかった土地をインディアンのリザベーションにしたのだが、後に、ナバホのリザベーションあたりからも、石炭・ウランなどの採掘が出来ることがわかり、多くの外部の石炭開発業者が入ることになる。石炭の採掘業者が掘削に地下水を使うため、水源は破壊され、保留地は慢性的に水不足になる。 現在でも、業者との間で係争中。

●放射能被害
第二次大戦以来、ウランが連邦政府によって採掘されて残滓が、そのままナバホの土地に放置された。
知らずにホーガンの材料にするなどして汚染が広がり、人的な放射能被害が深刻となった。
核実験場からの死の灰の影響も指摘され、彼ら放射能被害者を総称して、「風下の人々」と呼ばれることもあるようだ。

●観光ビジネス
進取の気性に富み、臨機応変で行動力もあるナバホ族は、さっそく、アンテロープやモニュメントバレーを観光地として売り出し、リザベーションを貧困から救う方向を見出す。
進取の気性に富み、臨機応変で行動力もある・・というのは、日本で言えば、かつて伊達藩もそう言われていた。

●ナバホ語について
ナバホ語は、他の言語と比べて非常に難しく、発音を聞き取ること、書き取ることさえ困難な言語とされる。
そのため、政府は、第一次・第二次世界大戦に、彼らを徴用し、主に、暗号専門の部隊として使った。

第二次世界大戦で、日本に原爆が落とされるときも、ナバホの暗号が使われたそうだ。事実上、「ナバホ暗号部隊」は太平洋戦の切り札となった。

右は、ジョン・ウー監督の有名な映画「ウィンドトーカーズ」・・ナバホ族のコードトーカー(暗号解読)と、ニコラス・ケイジの扮する白人軍曹でストーリー展開していく。よかったらどうぞ!

「ナバホ暗号部隊」に参加したナバホ族長老は、太平洋諸島最前線で日本人兵と至近距離で向かい合った時には、「後ろにいる白人たちよりも敵である日本人のほうが自分たちと外見が似ており、親近感を覚え動揺した」と語ったそうだ。


●平和主義?・ナバホ

白人の武力に対し抵抗する多くの先住民達に比べて、ナバホは、非常に温厚な民族ともいえる。戦わずに話し合おうと白人に歩み寄ろうとした数少ない最初の種族であった。勇猛果敢に戦うアパッチ族と違い、彼らが平和主義民族だったのか、それとも、戦っても武力でかなわない事を知って、少しでも一族が生き残る道として、平和解決の道をとったのか・・それは、わからない。

このように、ナバホの人々は、歴史上の苦難な道の中で、観光産業、資源の発掘権、インディアンアートやジュエリーの手広い販売などを手がけ、ナバホ・ネイションと呼ばれる小国家を築いて生き延びてきた。
部族の伝統だけにこだわらず、他部族と交流し、その技術を取り入れたり、ビジネスにも積極的に取り組み、やはり、先取の気性、臨機応変、たくましい部族と言えそうだ。
今なお、貧困にあえぐ多くの部族の中で、成功をおさめた部族といえるだろう。

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